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福島地方裁判所 昭和42年(ワ)287号 判決 1968年3月28日

原告

須田忠義

被告

小野金一

主文

被告は原告に対し二一七、六〇〇円及び内一六七、六〇〇円に対する昭和四二年一〇月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

この判決の第一項は原告が五万円の担保をたてたときは仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の申立

一、原告

1. 被告は原告に対し一、〇六二、一六〇円及び内九六五、六〇〇円に対する昭和四二年一〇月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え、

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

二、被告

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求めた。

第二、原告の主張

一、被告は、昭和四一年四月一九日午後九時四〇分頃、自己の保有する普通貨物自動車(福島四ぬ一〇七七号)を運転して、福島県伊達郡伊達町大字伏黒字宮本四八番地先道路を伊達町方面から保原町方面に向け進行し、自宅門口に向つて左折しようとした際被告は左後方を同方向に向け自動二輪車で進行中の原告に対する後方確認義務を怠り、漫然左折進行に移つた過失により被告車を原告車に衝突させ、原告を同車もろとも路上に転倒させ、原告に右脛骨、腓骨開放骨折の傷害を与えた。

二、原告は本件事故のため次の損害を受けた。

1. 得べかりし利益喪失による損害四六五、六〇〇円

被告は脳出血で長期療養中の父に代つて菓子製造業を営んできたが、本件事故により同四一年四月二〇日から同四二年三月五日まで合計三二〇日間休業した。原告が稼働していたならば一日二、〇〇〇円の利益をあげることができたので、原告は本件事故により二、〇〇〇円に三二〇を乗じた計六四万円の損害をうけた。

原告は休業手当として一七四、四〇〇円の自賠法による保険金の給付をうけたので、右の六四万円から一七四、四〇〇円を控除すると、原告の右損害は四六五、六〇〇円となる。

2. 慰藉料五〇万円

原告は本件事故により著しい精神的苦痛をうけ、被告は賠償の話合になんらの誠意を示さなかつた。これらの諸事情を考慮すると慰藉料は五〇万円をもつて相当とする。

3. 弁護士手数料九六、五六〇円

被告が任意に賠償の履行に応じないため、原告はやむをえず本訴を提起し、原告自身が本訴を遂行することは極めて困難であるので、原告は弁護士を依頼し、手数料相当額九六、五六〇円の損失をうけた。

三、よつて、原告は被告に対し本件事故による損害金九六五、六〇〇円及びこれに対する不法行為後である同四二年一〇月二〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金並びに弁護士手数料金九六、五六〇円の支払を求める。

四、被告主張四の点は争う。

第三、被告主張

一、原告主張一の点につき、被告の過失がある旨の主張を除き認めるが、被告には後記のとおり過失はない。

二、同主張二の点は知らない。

ただし、原告主張の弁護士手数料の基準は認める。

三、同主張三の点は争う。

四、被告には次のとおり過失はない。すなわち、被告は、自宅門口を左折進入するに際し、先づ同入口から約二五m手前の地点で後方を確認し、約五〇m後方を進行してくる原告車を認めたので、点滅式方向指示器で左折の合図をし、これを継続しつつ徐行に移り時速約五kmで左折をはじめたところ、原告は、被告車の進行を妨げてはならない義務があるのに、ビール約二本飲み注意力が減退していたため、徐行することなく漫然と進行してきて被告車に衝突したのであるから、原告にこそ過失があるといわざるをえない。

仮に被告に過失がありとしても、原告の損害額は相当相殺されるべきである。

第四、証拠関係〔略〕

理由

一、原告主張の交通事故により被告が脛骨、腓骨骨折の傷害をうけたことは当事者間に争いがない。

二、〔証拠略〕によれば次の事実が認められる。

1. 本件事故現場は別紙図面の示すように幅員五・五m、非舗装道路で、その南側に路面電車軌道が敷設されている。被告方の入口の幅は三・六m(二間)である。

2. 被告は、当日午後九時三五分頃友人宅から帰宅すべく、被告車を運転し、時速三〇Kmの速度で伊達方面から保原方面に進行し、別紙図面<1>の地点で左折の合図(点滅式方向指示)をして軌道敷内に入り、同図面<2>で後方を確認したところ、被告車の後方を進行してきた原告車が一三・二〇m後方(図面(イ))の地点に接近していたが、被告は左折の合図をしているから原告車が徐行するものと考え、時速五kmの速度で左折したが、原告車が徐行せずに進行した結果、同図面×の地点で衝突した。

3. 原告はビール二本飲んだ直後、原告車を運転していた。

原告本人は被告は左折の方向指示をしていなかつた旨供述し、乙第四号証(須田忠義の司法警察員に対する供述調書)、同第八号証(同人の検察官に対する供述調書)に右同旨の供述の記載があるが、これらは乙第六、七号証及び被告本人尋問の結果にてらして採用できず、他に右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、被告は、左折するため道路の右側を進行したのであるから(左折の場合はできるだけ道路の左側に寄つて進行すべきであるのに)、左折の合図をしていても、一三・二〇mまでに進行してきた原告車が徐行するかどうかを確認したうえで左折すべき義務があるのに、これを怠つて左折したため原告車に衝突したが、他方原告は被告車が左折の合図をしているのであるから、被告車の左折を妨げてはならない義務があるのに、左折の合図を見落して進行したため被告車に衝突したことが肯認され、両者過失割合は原告が七、被告が三と認めるを相当とする。

三、〔証拠略〕によれば、原告は本件事故によつてうけた傷害のため、昭和四一年四月二〇日から同四二年三月五日まで三二〇日家業の菓子製造に従事することができず、そのため一日二、〇〇〇円相当の割合による利益合計六四万円を失つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、原告は本件事故により得べかりし利益の喪失による六四万円の損害をうけたことが肯認されるので、前記認定の過失の割合を考慮すると、被告は右の損害のうち一九二、〇〇〇円を支払うべき義務があるというべきであるところ、原告が自賠法により休業年当として一七四、四〇〇円の給付をうけたことは原告の自認するところであるので、被告は原告に対し、一七、六〇〇円を支払うべき義務がある。

四、〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故により、右脛骨、腓骨開放性骨折の傷害をうけ、同四一年四月一九日から同年八月四日まで入院加療をうけ、現在でも足関節部に疼痛を感ずること、そのため長く立つたまま仕事をする菓子製造の家業に従事することをやめ、会社員となつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、原告は本件事故により著しい精神的苦痛をうけたことが肯認され、これに前記の原告の過失を考慮すると、被告が原告に支払うべき慰藉料は一五万円が相当である。

五、交通事故にもとづく損害賠償請求訴訟は被害者本人がこれを遂行することは極めて困難であるので、右訴訟に要した弁護士費用は相当な範囲で事故による通常の損害とみるのを相当とするところ、弁護士手数料が訴額の一割とされていることは被告も認めるところであり、これに前記原告の過失、本件訴訟の進行経過などを考慮すると、本件の弁護士手数料は五万円をもつて相当する。

六、よつて原告の本訴請求は前記認定の損害金合計二一七、六〇〇円及び内一六七、六〇〇円に対する本件不法行為後である同四二年一〇月二〇日(本件訴状送達の翌日)から支払ずみまで民法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容しその余の部分を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤貞二)

現場見取図

<省略>

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